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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)7249号 判決

主文

一  被告は、原告に対し、金五一三三万一二〇四円及びこれに対する昭和六二年一月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のそのほかの請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決の原告勝訴の部分は、仮に執行することができる。

五  但し、被告が金五二八〇万円の担保を供するときは、右の仮執行を免れることができる。

事実及び理由

一  事案の概要

1  原告の主張

(一)  原告及び被告は、国際利用航空運送事業を営む会社である。

(二)  原被告は、互いに着払の運賃を回収し、これを相手方に送金する義務を負うが、昭和五八年四月、右送金すべき着払いの運賃額から差し引くプロフィット・スプリットについて、次の約束をした。

(1) 計算の基礎となる額を、着払い運賃の額から航空会社に支払う運賃及び発地における諸費用を差し引いた額とする。

(2) 右の控除すべき航空会社に支払う運賃は、割戻や手数料を含まない額、すなわちマスターエアウェイビル(以下「MAWB」という。)記載の運賃とする。

(3) プロフィット・スプリットの率は、原告が開発した既存の顧客貨物の日本からアメリカへの輸送については原告八〇パーセント、被告二〇パーセントとし、被告が開発した既存の顧客貨物の日本からアメリカへの輸送及び昭和五八年五月一日以降に開発される顧客貨物の日米間輸送については、原告被告とも五〇パーセントとする。

(三)  昭和六〇年一〇月から同六一年二月までに原告が被告に送付した航空貨物の取引について、被告が回収すべき着払運賃(ハウスエアウェイビル(以下「HAWB」という。)記載の運賃)、その運賃について原告が航空会社に支払う運賃(MAWB記載の運賃)、及び原告が支出した発地における諸費用は、別表1のとおりであり、これをもとにして計算される被告に支払うべきプロフィットスプリットは、同表該当欄記載のとおりであった。

(四)  右の期間内に、被告が原告のために立て替えて支払った費用は、別表2のとおりであった。

(五)  右の期間内に、被告が原告に送付した航空貨物の取引につき、原告が回収すべき着払い運賃、その運賃について被告が航空会社に支払う運賃及び被告が支出した発地における諸費用は、別表3のとおりであり、これをもとに計算される原告に支払うべきプロフィットスプリットは、同表該当欄に記載のとおりであった。

(六)  右の期間内に原告が被告のために立て替えて支払った費用は、別表4のとおりであった。

(七)  なお、原告から被告に対しては、若干の運賃元払いの貨物を送付しており、これについても被告にプロフィット・スプリットを支払う約束であったが、右の期間内に原告が被告に送付した航空貨物の取引について、原告が回収した元払い運賃(HAWB記載の運賃)、その運賃について原告が航空会社に支払う運賃(MAWB記載の運賃)、及び原告が支出した発地における諸費用は、別表5のとおりであり、これをもとにして計算される被告に支払うべきプロフィットスプリットは、同表該当欄記載のとおりであった。

(八)  被告が原告に支払うべき着払い運賃等は、原告に持参又は送金して支払うべきものであり、したがって、その訴訟については、日本の裁判所に管轄権がある。

(九)  そこで、原告は、被告から支払を受けるべき金額から被告に支払うべき金額を差し引き、その残額である金一億〇一八三万〇三三二円のうち既に被告が弁済した金五〇四九万九一二八円を控除した残りの金五七一一万五二四七円と、これに対する訴状送達の翌日である昭和六二年一月一〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

2  被告の主張

(一)  プロフィット・スプリットについてした原告との約束の内容は、次のとおりであった。

(1) 計算の基礎となる額を、着払い運賃の額から航空会社に支払う運賃のみを差し引いた金額とする。発地における諸費用は、着払いの運賃から差し引かない約束であった。

(2) 右の控除すべき航空会社に支払う運賃は、MAWB記載の運賃から、航空会社から支払われるコミッション(MAWB記載の運賃の五パーセント)や割戻金を差し引いた額とする。

(3) プロフィット・スプリットの率は、原告主張どおりとする。

(二)  昭和六〇年一〇月から同六一年二月までに、被告が原告のために立て替えた費用は、別表2のとおりである。別表1、3、4、5記載の金額は、争う。

(三)  原告は、昭和五八年以降、プロフィットスプリットの計算に関する約定に反し、着払い運賃から発地における諸費用を控除し、かつ、着払い運賃から控除すべき航空会社に支払う運賃について、航空会社からのコミッションや割戻を差し引くことなく計算していた。そこで、昭和六〇年九月以前のプロフィットスプリットについて別表6のとおり未払い分がある。

被告は、原告の(九)主張の額しか原告に支払っていない。これは、被告の主張に基づき昭和六〇年一〇月から同六二年二月までの間に被告が原告に対して支払うべき額を計算し、そこから過去のプロフィットスプリットの未払い分を控除した額を支払ったものである。したがって、本件に関し、原告の被告に対する債権はもはや存在しない。

(四)  被告の本案前の主張

次の各理由から、日本には本件に対する裁判権がない。

(1) 原告被告間には、被告が原告に対し送付した送り状の裏面に記載した約款により、国際裁判管轄をアメリカとする旨の合意が成立しているから、日本に裁判権はない。

(2) 義務履行地における裁判権について

ア 原告及び被告がそれぞれ自国の荷受人から集めた運賃のやりとりについては、交互計算に組み入れられており、個々の債権を行使することはできない。したがって、その義務履行地も考えられない。

イ 仮に本件について義務履行地が考えられ、義務履行地が、国際裁判管轄の基礎となりうるとしても、契約上の特約により義務履行地が明示されあるいは契約内容から一義的に明確である場合など当事者が当該紛争につき義務履行地に訴えを提起されることが予想しうる場合にのみ、右義務履行地における裁判権が発生するというべきである。

本件において、被告が徴収した運賃を、原告に「持参又は送金する」という契約であることは否認し、契約上の義務履行地が日本であることは争う。口座振替も考えうるのである。

ウ 仮に、右以外の場合に義務履行地に裁判権が発生するとしても、その義務履行地は限定的に、主たる紛争の発生地と解すべきである。これを本件についてみると、原被告間においては、被告がアメリカにおいて行う業務、すなわち到着した貨物の仕分け、荷受人への配送、苦情の処理等が重大である。そこで、アメリカにおいて紛争が発生する可能性の方が高い。したがって、アメリカが義務履行地である。

(3) 証拠収集もアメリカにおいて行うのが有利であり、訴訟も迅速・能率的にできる。日本にある書証も、アメリカに送ればよい。

(4) 当事者間の公平上も、アメリカに裁判権を認めるべきである。すなわち、被告は、日本に事務所、営業所をもたず、経済活動の拠点を有しないから、日本においては応訴しがたい。

二  当裁判所の判断

1  本件について日本の裁判所に裁判権があるかどうかを判断する。

証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  利用航空運送事業(混載業)とは、自己の名において荷送人と運送契約を締結し、実際の貨物の運送は航空会社に依頼して行う、航空会社を利用して運送する事業である。航空会社から発地の混載業者に発行される運送状をマスターエアウエイビル(MAWB)といい、発地の混載業者が荷送人に発行する運送状をハウスエアウエイビル(HAWB)という。発地の混載業者は、航空会社に対して航空運賃を支払い、その航空運賃を含む諸経費は、通常着払いとされる運賃(HAWB記載の運賃)を回収してこれを賄う。この着払い運賃の回収は、発地の混載業者から着地の混載仕分代理店(貨物の仕分けのみでなくセールス等も行なう代理店を含む。)に依頼され、着地の混載仕分代理店は、通常、荷受人から貨物の通関業務の委託を受けた通関業者に貨物を引き渡す際、着払い運賃を回収する。回収した着払い運賃は、着地の混載仕分代理店が発地の混載業者から委託を受けた預り金であり、本来の権利者である発地の混載業者に引き渡されるべきものである。

証拠〈省略〉

(二)  被告は、原告に対し、着地の混載仕分代理店の資格でアメリカドルで回収した着払い運賃を日本円に換算して、昭和五八年から同六〇年まで、約二年の間、発地の混載業者である原告の東京にある銀行口座に、異議を述べずに送金していた。

証拠〈省略〉

以上認定した事実からみると、原被告間においても、着地の混載仕分代理店がその資格で回収した着払い運賃は、その回収の依頼者であって、運賃債権の本来の権利者である発地の混載業者に対し送金して支払う旨の合意があったものと認めることができる。

そして、本件訴訟は、着地の混載仕分代理店である被告がその資格で回収した着払い運賃を発地の混載業者である原告に支払うように求める訴訟であって、その支払い義務の義務履行地は、振込送金の受領地である日本国東京であるというべきである。

ところで、義務履行地の裁判籍(民訴法五条)を含む民訴法の特別裁判籍は、当事者間の公平をも考慮して定められたものであって、その裁判籍が日本国内にあるときは、特段の事情の無い限り、その訴訟事件の被告をわが国の裁判権に服させるのが条理にかなうことは、最高裁判所の判例(最高裁判所昭和五六年一〇月一六日判決民集三五巻七号一二二四頁)の示すところである。

本件では、被告に対する送達は、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約に基づき、適法になされており、また、被告は、その関連会社を東京に有し(〈証拠〉)、訴訟遂行について現にその援助を受けているのであるから、本件訴訟について義務履行地に裁判籍があるものとして、被告を日本国の裁判権に服させることとしても、なんら不都合があるとは認められない。

被告は、本件訴訟は、被告の使用している送り状の裏面約款に記載されている裁判管轄の条項に拘束されると主張する。しかし、被告が着地の混載仕分代理店としての業務に関して原告に送付した送り状は、被告が原告に対して金員の支払いを請求するに当たって、便宜的に利用した単なる用紙にすぎないものと認められ(〈証拠〉)、右の業務に関する原告と被告間の契約の内容を表示するものとして、原告に送付された事実を認めることはできないから、その裏面約款の管轄の条項は、本件訴訟について適用されないものと解するのが相当である。

さらに、被告は、本件訴訟で請求されている債権は、交互計算契約に組み込まれていて、独自に義務履行地を考えることができないから、義務履行地に基づく特別裁判籍は存在しないと主張する。しかし、原告と被告の間で被告主張の交互計算契約が結ばれた事実を認めるに足る証拠はない(被告の援用する乙一は、単なる支払い方法の定めにすぎず、個別の債権の行使に被告のいうような厳格な制限を加えたものと認めることは困難である。)。そして、仮に交互計算契約が存在したとしても、原告が本訴において予備的にこれを解除する旨意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。したがって、交互計算契約を理由とする被告の主張も失当である。

以上説示したように、本件訴訟については、日本の裁判所に裁判権があり、被告の本案前の抗弁は、理由がなく、却下を免れない。

2  プロフィット・スプリットの計算について、着払い運賃から発地の諸費用を差し引く合意があったかどうかについて判断する。

被告代表者は、着払いの運賃からは航空会社に支払った航空運賃以外の費用を差し引かない約束であったと述べ(被告代表者一回三七、三八項)、また、証人石井清は、そのように証言する(一回二八項、六八項、一〇〇項)。

そして、被告代表者は、その根拠として、エモ・グループの代表者が集まり昭和五八年三月一八日から二〇日まで開催されたロスアンゼルス会議において、そのように決定されたと述べる(一回三七、三八項)。

しかしながら、証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  被告代表者は、右のロスアンゼルス会議に先立って、一九八三年三月一七日に意見書を提出した。この意見書における被告代表者の見解は、プロフィット・スプリットの計算のもとになる利益を算出する場合、着払い運賃からその貨物に関して着地業者及び発地業者が支払った全ての費用の控除をする方法によることが一般に受け入れられているというものであった。

証拠〈省略〉

(二)  ロスアンゼルス会議の議決事項を記載した乙一には、発地の諸費用を控除すべきかどうかについては記載がない。

証拠〈省略〉

(三)  被告は、前記のロスアンゼルス会議の後に被告が原告に対して支払うべきプロフィット・スプリットに関し、着払い運賃から被告の負担した発地の諸費用を引いていた。

証拠〈省略〉

(四)  原告もまた、右のロスアンゼルス会議後、発地の諸費用を差し引いてプロフィット・スプリットを計算したうえ、被告に対して着払い運賃の送金を請求していた。原告が差し引いた発地の諸費用には、FOBベースで輸出される貨物である以上本来荷送人が支払うべき費用を、原告において負担していたものがあった。この発地の諸費用は、原告が、被告との間でプロフィット・スプリットによる取引を開始するに先立って獲得していた顧客など原告の努力で獲得した顧客から、継続的に運送の注文を受けた貨物について支出していたものであり、このような費用を支出することは、原告が他の混載業者と競争して顧客を獲得し、また一旦獲得した顧客を維持するため必要なものであった。そこで、原告代表者は、そのことを被告代表者に説明し、また被告も、そのような支出が必要であることを了解して、異議なく原告の請求額を支払っていた。

証拠〈省略〉

(五)  被告が原告に対する着払い運賃の送金を停止したのは、被告のアトランタ営業所が、大口の荷受人であるレニア社に対して、円ドルの為替交換比率を偽って、正当な着払い運賃の額を超える過大な請求を行ない、レニア社に多額(レニア社の損害賠償請求額は、二〇万ドルであった。)の損害を与えていた事件の解決について、被告及びエモ・グループの代表者であるエッカルト・モルトマンが原告に損害賠償金の拠出を求め、原告がこれを拒否した後である。

証拠〈省略〉

被告代表者は、被告が右(三)に認定したように原告に支払うプロフィット・スプリットの計算において着払い運賃から発地の諸費用を控除したのは、アメリカから日本への輸出貨物の場合のプロフィット・スプリットは五〇%と高率であるので、プロフィット・スプリットの割合の低い日本からアメリカへの輸入貨物の場合と異なり、発地の諸費用を控除して計算したものであると供述する(一回五二項)。しかしながら、被告代表者は、プロフィット・スプリットの計算方法についてロサンゼルス会議で細かく討議され、航空運賃以外の費用は一切引かない旨議決されたと供述する(一回三八項)のであるから、そのような議決に反する右の取扱がされたとすれば、なんらかの特別の合意がなければならないはずであるのに、被告代表者はこのような重要な点について、なんら明確な供述をしないのであって(被告代表者の尋問の結果(二回三四、三五、三七、三九項))、その供述には一貫性がないものといわなければならない。

そして、被告代表者は、通常は発地の諸費用を控除していないと供述し(一回五三項)、甲二五、二六の取り引きで費用をプロフィットから控除した例外であるかのようにいうが、なぜ甲二五、二六の取り引きにおいてのみ費用を控除したのか、明確な説明はなされておらず(被告代表者の尋問の結果(二回三八、三九項))、右供述も採用しがたい。

ところで、プロフィット・スプリットに関する基本的な考え方が、収入から経費を差し引いて算出される利益を、業務に貢献した当事者間で分配するというものであることは、両当事者間に争いのないところである。そうであるとすると、収入(HAWB記載の航空運賃である。)から差し引かれるべき経費は、貨物に関して実際に各当事者が負担した費用の全額であるとするのが自然に導かれる結論である。もし当事者の一方に控除できない費用があれば、それだけその当事者の実質的な収益は減少するのであって、これにより、当事者間で合意されたプロフィット・スプリットの割合が実質的に異なってくるだけでなく、費用の額如何によってはこれを負担する当事者のみが営業上損失を被ることになりかねない(現に被告の主張する算式により計算すると、原告は、努力して顧客を獲得し、その獲得や維持に日常的に多額の経費を支出しているにもかかわらず、常に営業利益が多額の赤字になるのに対して、被告は、着地の混載仕分代理店としてのサービス業務をするだけで、顧客の獲得やその維持について特段の貢献もしていないにもかかわらず、常に大きな黒字をあげることになる。甲三五、三六、原告代表者の尋問の結果(二回二一から二五項)参照)。通常の経済常識を有する者であれば、そのような事態となる危険を冒すことは、考えられないからである。

前記(一)に認定した被告代表者の見解は、これと同じ趣旨のものであるが、被告代表者が、あえて自己の認識や意見と相反する見解を述べたとは考え難い。

そうであれば、原被告の負担となった費用はすべて控除できるとする原告代表者の供述(一回三一、三二、三八、四八、四九、九五項)の方が、信用性が高いというべきである。

そうすると、原告代表者と被告代表者はもともとプロフィット・スプリットの計算について同じ意見をもち(原告の尋問の結果一回五六項参照)、原告被告ともに相手方に支払うべきプロフィット・スプリットにつき、その一致した意見に従った取扱をしたことになるのであるから、原被告間では、原告が被告に支払うプロフィット・スプリットの計算についても、被告が原告に支払うプロフィット・スプリットと同じように、発地における諸費用を控除できるとの合意があったと認めるのが相当である。

乙一三、二二は、原被告間の取り引きに関して以上説示したところと対比すれば、前記認定を左右するものではない。

3  プロフィット・スプリットの計算について、着払い運賃から差し引く航空運賃は手数料や割戻し分を控除した額とする合意があったかどうかについて判断する。

被告代表者及び証人石井清は、右の合意があったと述べ(被告代表者の尋問の結果(一回一九項)、石井清証言一回一一三項)、その根拠として、ロスアンゼルス会議の議決事項を記載した乙一で着払い運賃から控除されるべきものとされた「MAWBネットネットフレイトコスト(NET NET FREIGHT COST)」とはMAWB記載の運賃から手数料や割戻しを引いたものを意味するという(被告代表者の尋問の結果(一回三四項))。

しかしながら、証拠によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  航空会社は、IATA(国際航空運送協会)のタリフレートで記載されたMAWB運賃に対して、IATAの規定によって五%の割合によるコミッションを発地の混載業者に支払うのを常とするが、このコミッションは、混載業者が、航空会社の代理店と同じく航空会社の代わりに貨物を集める業務を行なっていることに対する報酬の趣旨で支払われるものである。

証拠〈省略〉

(二)  航空会社は、混載業者に対してMAWB記載の運賃について五パーセントのコミッションのほかに割戻し(リファンド。インセンティブともいう。八%から一五%程度であった。)を支払うのを常としていた。

(被告代表者は、インセンティブはなかったと供述する(一回五五、五七項)が、後記の甲四六の一から五の記載に照らして採用しがたい。)

証拠〈省略〉

(三)  原告代表者は、ロスアンゼルス会議の議決事項として記載された「MAWBネットネットフレイトコスト」とは、MAWB上にはIATAのタリフレートのほかに航空運送業務以外のコストとして着払い手数料、発地における諸掛かりなどが記載されているが、それらを除いた正味のIATAのタリフレート(航空運賃)を意味すると考えていた。

証拠〈省略〉

(四)  被告は、前記のロスアンゼルス会議の後に被告が原告に対して支払うべきプロフィット・スプリットを計算する際、着払い運賃から差し引くMAWB記載の運賃については、IATAのタリフレートのみで計算し、被告の受け取っていたコミッション及び割戻しを控除していなかった。

証拠〈省略〉

(五)  被告は、ロスアンゼルス会議後、原告が被告と同様にMAWB記載のIATAのタリフレートから原告の受け取っていたコミッション及び割戻しを控除しないでプロフィット・スプリットを計算したうえ、被告に対して着払い運賃の送金を請求していることを知りながら、異議なく請求額を支払っていた。

証拠〈省略〉

被告代表者は、被告が右(三)に認定したように原告に支払うプロフィット・スプリットの計算において、着払い運賃から差し引くMAWB記載の運賃について、被告の受け取っていたコミッションを控除していなかったのは、アメリカから日本への輸出貨物の場合のプロフィット・スプリットは五〇%と高率であるので、プロフィット・スプリットの割合の低い日本からアメリカへの輸入貨物の場合と異なり、控除しなかったものであると供述する(一回五七項)。しかしながら、被告代表者は、プロフィット・スプリットの計算方法についてロサンゼルス会議で細かく討議され、前記の通りMAWBネットネットフレイトコストと定められたと供述する(一回三四項)のであるから、そのような議決に反する右の取扱がされたとすれば、なんらかの特別の合意がなければならないはずであるのに、被告代表者はこのような重要な点について、なんら明確な供述をしないのであって、その供述にも一貫性がないものといわなければならない。

そして、右に認定したように、原告も被告もプロフィット・スプリットの計算において、コミッションや割戻しを差し引かないで経費を計算し、相手方の請求に応じていたことからすると、原告と被告との間でその解釈に違いがあるロスアンゼルス会議の前記の文言にかかわらず、原告と被告との合意の内容としては、コミッションや割戻しを差し引かないで計算する約束であったと解するのが相当である(原告代表者の尋問の結果(二回一九三項)、証人石井清の証言(二回一六六項以下)参照)。

乙一三、二三は、原被告間の取り引きに関して以上説示したところと対比すれば、前記認定を左右するものではない。

4  昭和六〇年一〇月から六一年二月までの期間に原告が被告に送付した航空貨物の取引について、被告が回収すべき着払い運賃の額等について判断する。

右の取引について、被告が原告のために回収すべき着払い運賃の額、右取引について原告が航空会社に支払ったMAWB記載の運賃、右取引について原告が支出した発地における諸費用が別表1記載の金額であったことは、〈証拠〉により認められる。

なお、被告は、甲四の五のデビットメモ(請求書)番号6205記載の着払い運賃一六九万五二〇〇円は、原告が直接荷受人であるシンデザイン社から取り立てるとの合意があり、原告が直接取り立てているので、被告は、この請求に応じられないと主張する(被告第二準備書面七丁表)。

しかし、原告代表者の尋問の結果(二回七四、七五項)によっても、被告の主張は疑わしく、これを認めるに足りる証拠がない。

5  右の認定に基づいて、原告から被告に支払うべきプロフィット・スプリットの額について判断する。

右別表1によれば、原告から被告に支払われるべきプロフィット・スプリットの金額は、別表1の該当覧記載の金額であったものと認められる。

6  昭和六〇年一〇月から同年一二月までに原告が被告のために立て替えて支払った費用について判断する。

証拠によれば、原告は、次の費用を被告のために立て替えて支払ったこと、及びこれらの費用については、依頼者である被告がこれを支払う約定であったものと認めることができる。

パレットコンテナ取り下ろし料一万〇八三五円

昭和六〇年一〇月発送 被告アトランタ営業所取扱

輸入貨物に関する海上貨物取り扱いの諸掛一七万五二六〇円

昭和六〇年一〇月発送 被告ロサンゼルス営業所取扱

輸入貨物に関する海上貨物取り扱いの諸掛六万二六四〇円

昭和六一年一月発送 被告ロサンゼルス営業所取扱

証拠〈省略〉

被告は、原告はこれらの費用を支払っていない、そもそも原告が取り下ろし業者に支払う必要のない費用であると反論する。しかしながら、輸出貨物コンテナのアメリカでの取り下ろし料については、原告が被告に対しこれを支払っていることが認められ(甲三の五、四の四で原告の債務となっているBUC Break Downは、輸出貨物コンテナのアメリカでの取り下ろし料である。また、原告代表者二回六一項参照。)、このことからも、コンテナ取り下ろし料については着地業者が立替払をして発地業者に請求することができるとの約定であったと認めることができる。

そして、別表4記載のその他の費用を原告が立替支出したことは、〈証拠〉により認めることができる。

7  昭和六〇年一〇月から六一年二月までの期間に被告が原告に送付した航空貨物の取引について、原告が回収すべき着払い運賃の額等について判断する。

右の取引について、原告が被告のために回収すべき着払い運賃の額、右取引について被告が航空会社に支払ったMAWB記載の運賃、右取引について被告が支出した発地における諸費用が別表3記載の金額であったことは、〈証拠〉により認めることができる。

8  右の認定に基づいて、被告が原告に支払うべきプロフィット・スプリットの額について判断する。

右別表3によれば、被告から原告に支払われるべきプロフィット・スプリットの金額は、別表3の該当覧記載の金額であったものと認められる。

9  昭和六〇年一〇月から同年一二月までに被告が原告のために立て替えて支払った費用について判断する。

被告が別表2の金額を原告のために立て替えて支払ったことは、被告も認めるところである。

10  昭和六〇年一〇月から同年一二月までに原告が被告に送付した航空貨物の取引について、原告が回収した元払い運賃等の額について判断する。

右の取引について、原告が回収した元払い運賃(HAWB記載の運賃)、その運賃について原告が航空会社に支払う運賃(MAWB記載の運賃)、及び原告が支出した発地における諸費用が、別表5のとおりであることは、〈証拠〉により認めることができる。

そして、この事実によれば、右元払い運賃について原告から被告に支払うべきプロフィット・スプリットは、同表該当欄記載のとおりとなる。

11  そうすると、原告は、右の期間の被告との取引に関して、差引一億〇一八三万〇三三二円の支払いを求める権利を有していたものである。これに対し被告は、五〇四九万九一二八円を弁済していることが認められるので、原告は、被告に対して右弁済額を控除した金五一三三万一二〇四円とその訴状送達以降の年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有することとなる。原告の請求は右の金額の限度で理由があり、認容するべきである。

12  被告は、原告がプロフィット・スプリットの計算に当たり、原告の主張するとおり、発地の諸費用を差し引き、航空会社からの手数料、割戻しを加算しないでしてきたのは、契約違反であり、これによって昭和五八年以降別表6の金額の過払いが生じていたと主張している。しかし、既に認定した通り、プロフィット・スプリットの計算に関する原告と被告との合意内容は、原告主張の内容であったものと認められるから、被告の右の主張は、理由がなく採用できない。

13  なお、本件については、訴えが起こされてから既に相当の時間が経過していることに鑑み、仮執行の宣言をしたが、被告が控訴しても、本件の認容額に控訴審の判決がなされるまでに生ずる遅延損害金の額を付加した金額(当裁判所はこれを約六六〇〇万円であると算定した。)を基として、原告の敗訴可能性と本件の事案を考慮にいれた相当な額の担保を積ませれば、被告らに仮執行を免れさせても、原告の利益を著しく害することとはならないと考えられるので、このような担保を条件とする仮執行の免脱の宣言をすることとする。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 岩田好二 裁判官 久留島群一)

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